【熊本のいま vol.2】自然の恵みへの感謝、日本の原風景がここに~御田祭~

青々と広がる大きな空の下、力強く見守ってくれているような阿蘇山と緑一面の田園風景に囲まれながら、行列とともにゆっくりと神輿が動いていく――

千年以上の伝統を持つ阿蘇神社の祭礼「御田祭」。
爽やかな自然の色合いと行列のコントラストはなんとも美しく、お祭りを通して阿蘇に住む人々同士の笑顔と挨拶が行き交う様を見ていると、思わず笑みが溢れてしまう。
一緒になって歩いていると、一人一人が今もこのお祭りを心から大切にしているということがひしひしと伝わってきます。

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今回は、防災ガールの活動として関わらせていただいたこのお祭りの魅力の一端をみなさんにもご紹介したいと思います。

 

御田祭(おんだまつり)について

御田祭の舞台は、熊本県阿蘇市に位置する阿蘇神社。2016年4月の熊本地震によって楼門や拝殿が全壊してしまうなど、大きな被害を受けた場所でもあります。

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(全壊した拝殿の様子)

 

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(大きく破損している神殿の様子)

 

御田祭は、毎年7月28日におこなわれる五穀豊穣を願うお祭りで、「春に植えた稲がしっかりと育っているかを神様に見ていただく」という意味があるそうです。

四基のお神輿を中心に、宇奈利(ウナリ)と呼ばれる14名の女性たちや馬など、およそ200人が行列をつくり、ゆっくりと歩いていきます。阿蘇神社でおこなわれる年間の祭礼の中でも最大規模のもので、毎年県内外からも観光客がやってくる大きなお祭りとなっています。

今年は地震の影響で継続できるのかどうかという声もありましたが、地元の方々や阿蘇神社の方の強い想いによって挙行されたこの御田祭。

今回は、お祭りが始まる朝から終了する夕方まで、町の中を行進していく行列と共に歩きながらお祭りを体験させていただくことができました。

 

お祭りの様子

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(仮拝殿にて、朝の神事の様子)

 

始まりを告げる神事は、さまざまな神社の関係者や支援者の方々が集まり、厳かな雰囲気の中で執りおこなわれます。本来は神社中央にあった拝殿でおこなうものですが、地震によって全壊してしまったため、急遽仮設した仮拝殿で神事をおこなっていました。

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(震災の影響で急きょ仮設された仮拝殿)

 

神事の後、地域の子どもたちによる獅子舞もありながら、

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青年たちによって担がれたお神輿が、順番に門をくぐり出発します。

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阿蘇神社を出発すると、四基のお神輿や宇奈利(ウナリ)たちが続いて行列をなし、町の中へと進んでいきます。阿蘇神社には12の神様がおり、それぞれのお神輿に神様が入っているそうです。また、地元の方によると女性が14名なのは、12の阿蘇神社の神様に加えて、阿蘇山の火の神様と、その影響で湧き出る水の神様を表しているのだそう。

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(行列を成して歩く宇奈利)

 

他にもさまざまな装束の子どもたちや若者が列になって進んでいきます。

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長い行列を保ったまま、一行は町へ。

強い日差しが照り付ける中、道中近所の家々からの差し入れや給水所での水分補給をしながら進んでいきます。

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(至る所にこんこんと湧き水も湧いている。これも阿蘇山の恵み。)

 

 

行列は決まったルートを進み、神社を出発してから二箇所の御小屋(休憩所)を通過し、神社に戻ってきます。

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お祭りのクライマックスは、行列が神社に帰ってきた際の「田植式」。

町の中を歩ききって達成感に満ちた顔をした男たちが、神社の中をぐるぐるとお神輿を担いで回り、周りから稲が投げかけられます。お神輿を担いでいる方々も投げる方もこれが最後だとばかりに夢中になって、その時間を惜しむように楽しみつつ、お祭りの盛り上がりは最高潮を迎えました。

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そして最後には、仮拝殿にておんだ歌が全員で歌われます。

 

わたし自身もこの中に入りともに口ずさんでいたのですが、互いの声が響きあい、何とも荘厳な空気が満ちていました。壮年青年混じり合った声を通じて、お祭りは最後の祝福の時を迎えます。

 

「御田祭」を体験してみて感じた魅力的な特徴三つ

これまで多くのお祭りを見て体験してきましたが、このお祭りで特に面白いと感じたことが3点ありましたのでご紹介します。

 

おまいり

行列が町を練り歩く最中に、地元の方々が来るとお神輿は動きを止め、「おまいり」「おまいり」と言いながら、お神輿の下をくぐる風習というがあります。お神輿を鳥居と見立て、おまいりをすることでご利益があるということなのでしょうか。

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お祭りの激しいお神輿を見慣れた身としては少し滑稽にも映るかもしれませんが、地元のおばあちゃん・おじいちゃんが担ぎ手の若手たちに向けて、「大きくなったねえ」と温かな笑顔で声を掛ける光景を見ているだけで、心が思わずほんわかすることが何度もありました。また、逆に担ぎ手の若手たちから道端でお神輿を待つおばあちゃん・おじいちゃんに「元気にしとる?」と声をかける場面もあり、地域の絆を感じさせる素敵な風習だなと感じました。

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(車いすや足腰の悪い方もおまいりを。神輿の担ぎ手はゆっくりとそれを見守っているのが印象的でした)

 

田植え

御田祭りは、行列がただ進行するだけではないのです。御仮屋をそれぞれ出発する時と神社に戻ってきた時の計3回、観ている人たちがお神輿に向けて特別に準備された稲を投げ掛けるという行為をします。これを「田植え」といい、投げかけられた稲がたくさん神輿に乗れば乗るほど豊作になるとされているそう。

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投げかけられた稲は神輿にぶつかったり、時には担ぎ手の顔にぶつかったりすることも。これまた少し滑稽な景色でもあるけれど、観ている側もこうして参加できるのはとても楽しく、わたしたちも少しでも多くの稲が神輿に乗るようにと夢中になって稲を投げかけました。

 

 

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(四基のお神輿がぐるぐると円を描き、そこへ向かって稲を投げかける)

おんだ歌

最後に紹介したいのは、神輿の運行とともに歌われる独特な「おんだ歌」というもの。神輿の担ぎ手は若い衆が中心なのに対して、主に年配の方々がこれを歌っていました。

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豊作を願ったこの歌は、お祭りの伝統と同じく千年以上昔から続くもの。とにかく一語一語を噛みしめるように、とてもとてもゆっくりと歌われます。

 

たとえば「か」という一文字を歌うのに、「か〜〜〜、あ〜〜〜〜、あ〜〜〜、あ〜〜〜」と音程を変え、反芻しながら歌われるのがこの歌です。

伝統的に歌われる神様言葉ということで、現代言葉とは全く違う言葉を、歌い手の皆さんは覚えて歌われていました。

特に田んぼの周りでは度々足を止めよく歌われ、それぞれの神様を宿す神輿の担当ごとに掛け合いのように歌のやり取りがおこなわれたりと、実に厳かな響きが生まれます。

お神輿や行列はこの歌のペースに合わせて進行するので、とにかく進むスピードは遅く、ゆっくりゆっくりと列が進みます。神様にこの田んぼをしっかりとご覧いただくため、あえて遅くしているということなのかもしれません。

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(いわば歌詞カードのようなもの。音程や調子を書き込んで持参している方もいらっしゃいました)

 

朝から夕方まで町を練り歩き、日が落ちる頃には祭りは終わり、神社の前で賑わっている屋台に目を向けると、楽しそうな顔をした中高生や親子連れをたくさん見かけました。

「お祭りだよ〜」とお父さんに手を引っ張ってもらいながら屋台に消えていく子供の嬉しそうな笑顔は、いつの時代も、何があっても変わらないものなのだろうと思います。

 

終わりに

お祭りに関わる人員はほとんどが地元の方で構成されており、地域の伝統がしっかりと受け継がれているお祭りであるということがひしひしと伝わってきました。千年以上続く伝統を守ることの重みは、きっと想像以上のものでしょう。

また、「おまいり」や「田植え」を通じて能動的に楽しみながらコミュニケーションを取れるという仕組みが、神事としてのこの伝統を地域住民の方々も受け入れることができる秘訣なのではと感じました。

 

青々として美しい田園風景と絶対的存在感のある熊本・阿蘇の山々をバックにゆったりと進む行列のコラボレーション、そして独特なおんだ歌が生み出す一体感はここでしか味わえないものです。

地震の影響を受けながらもこうしてお祭りを継続し、そこに参加させていただけるという貴重な機会を与えてもらえたことに感謝しつつ、このお祭りが活き活きと続いていくこと、そして1日でも早い阿蘇の復興を願ってやみません。

 

文責:マツリズム 大原 学

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