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【熊本のいま vol.5 】「物心(ぶっしん)」の復興へ向けて、踏み出す一歩を。~阿蘇神社 権禰宜 矢田幸貴氏インタビュー~

震災から5ヵ月。第4回目の支援となった今回の熊本訪問では、「熊本の今」をみなさんにお伝えすることもひとつの使命だと考え、前回訪問時から引き続きいろいろな方へお話を伺いました。

第5弾は、阿蘇神社 権禰宜(ごんねぎ)*であり、今回の地震で被害の大きかった益城町にお住まいの矢田幸貴さんへのインタビューをお届けします。
(*権禰宜=神職の職階の一つ)

 

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震災から5ヵ月、「+α」のあるくらし

――まず最初に、矢田さんは阿蘇神社でどのようなお仕事をされているのか教えていただけますか?
矢田:そうですね、お祓いに来られる方の祈願や祭事はもちろん、地域のお祭りにも関わることがあります。神社という場所はお正月や七五三など、くらしの節目に訪れる場所でもありますよね。ですので、四季に合わせて仕事が決まっているのが基本なんです。

――なるほど。震災後はどのような変化がありましたか?
矢田:やはり震災の直後は、その四季に合わせたサイクル通りにというわけにはいかなくなりました。今は通常業務をおこないながら、+αで災害支援や復興へ向けた動きがおこなわれているという状態です。今年も御田祭をおこなったことにも通じますが、われわれが通常の勤めを止めるわけにはいきませんので、皆で分担し補い合いながら進めています。また、わたしは実家が益城町にある木山神宮という神社なので、もともと2足のわらじで勤めていたところに震災があり、今は2足のわらじそれぞれに+αとしての復興が加わっています。

――2足のわらじに+αですか…! 益城町はわたしたちも何度か足を運んでボランティアに参加していますが、家屋の倒壊が激しかった場所ですよね。矢田さんのご実家は大丈夫でしたか?
矢田:そうですね、14日の揺れがあった後、15日に阿蘇神社の方に手伝っていただいて実家の神社の御神体を安全な場所へ移すことが出来ました。もちろん神社自体への被害はありましたが、御神体は守れてひと安心…と思っていたところへ、16日の二度目の強い揺れ。今度は阿蘇神社に大きな被害があったと聞いて、こちらへ駆けつけました。正直三日間くらいのことは記憶がありません。それぞれの復興をめざして、今は邁進しています。

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それぞれの復興をめざして

――地域も違う阿蘇神社とご実家の神社、ふたつの復旧・復興に関しての違いはありますか?
矢田:阿蘇神社では、幸いにも一名も命を落とさずに済みました。多くの方に親しまれ神社としても規模の大きな神社ですので、阿蘇の復興のシンボルとしての機能があるのではないかと思っています。だからこそ、できる限り早い復旧・復興を目指したいですし、きっと望まれてもいるのだろうと考えています。対してわたしの実家の神社は、ご存知の通り被害の大きかった益城町にあり、地域の氏子さんに支えられ成り立ってきた小さな神社です。その分焦らずゆっくりと、皆さまと一緒にできることから少しずつ復旧・復興をおこなっていけばいいのかなと思っています。

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益城町にある矢田さんのご実家・倒壊してしまった木山神宮の様子

――益城町の「今」はどのような状態ですか?
矢田:益城町は市内に比べてまだまだ時間が止まっているような印象を受けます。倒壊した家屋がそのままになっているところもまだまだありますし、亡くなった方もいらっしゃる場所ですから、心が動き出すにはそれなりに時間も必要です。しかし、だからこそ、動き出す最初の一歩を担うのはわたしの役目なのではないかと思っています。

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――最初の一歩、と言いますと?
矢田:神社というのは、もうずっと昔からその地域の皆さまの大切な節目に訪れていただく場所でもあり、伝統的な祭事も含めふだんから皆さまの傍に在る存在です。だからこそ、われわれが「今年も祭事を執り行う」と決めることこそが、その町の時間が動き出す一歩にもなり得るのではないかと思うんです。

――なるほど。東日本大震災の時にも多くみられた「自粛モード」のような空気がピンと張り詰めているところを、これまでのくらしや復興に向けて動かす第一歩になり得るということですね。風穴を開ける、というか。とても重要なことだと思います。
矢田:私はもともと前向きな性分ですし、言い方はおかしいかもしれませんが地震があったからこそ得た経験や学びやつながりも確実にあったと思っています。もちろん心が追いつかないという方もいらっしゃって当然だと思いますし、無理に押し付けるつもりはありませんが、できることから、できるところから、復興へ向けて動き出す必要はあると思うんです。

できる人ができることをやればいいと思うので、益城の神社では今年も例年通り10月に祭事をおこなおうとしています。例年通り氏子さんたちにご協力をお願いして、地震の被害でそれどころじゃないという方には無理強いはせず、どんなに小さな規模でもいいから可能な範囲での「スタート」を切りたいなと。どんなに小さくても、一歩目が動けば後から続く人も出てくるのではないかなと思うので。

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今だからこそ、これまで通りのやり方で。

――益城町はやはり多くの方が被災されていると思いますが、祭事を行うために外部からボランティアを入れるということは考えませんでしたか?
矢田:そうですね。確かに、演芸に関わる氏子さんの8割程度が被災されていますし、ボランティアを希望してくださる方もたくさんいらっしゃいます。正直どちらがいいのか悩みました。けれどやっぱり、私はこれまでずっと支えてくださった益城町の皆さんと一緒に「お祭り」を「お祭り」として執り行うことに意味があると思っています。もちろん、その方々が「お手伝いが欲しい」となれば、外部のボランティアの方へお声がけしていただくことも大歓迎ですが、私はただ例年通りにお声がけをしていきます。とにかく決して無理はせず、小さな規模からでも益城町での祭事を続け、来年再来年につないで大きくしていければいいんだと思っています。

 

――町の方々の居場所を奪うことはせず、できる範囲からゆっくりと、けれど矢田さんが動くことで確実に最初の一歩をスタートさせるということですね。停滞して張りつめているような状態を動かす一歩はなかなか踏み出すのが難しいものだと思うんですが、矢田さんのそのアクティブであり前向きな姿勢というのは一体何がルーツなんですか?

 

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矢田:実は学生時代にいろいろなジャンルの人を集めた音楽イベントを開催して、その売り上げをチャリティへ回すといった活動もおこなっていたことがあります。その時の経験から、「小さな力でも掛け合わせて何かを作ることはできる」という感覚があるのかもしれませんね。

あとは単純に、いろいろな人を繋いで何かをするということが好きだったりもします。だからこの震災をきっかけにこうしていろいろな方に出逢えているということも、実は少し楽しいなと思えたりもするんです。(笑)

 

物心の復興へ向けてこれから必要な支援とは

矢田:「物心」という言葉を聞いたことはありますか?
――ぶっしん、ですか?いえ、どういう意味でしょうか。

矢田:「物」と「心」と書いて物心。物質と精神のことですが、私は復興にはこのふたつ両方が必要だと思っています。たとえば、街並みがどれだけ整っていったとしても、人の心が追い付いてこなければ本当のくらしや営みは戻ってきません。熊本市内は熊本城が直ればほとんど元通り、阿蘇も街並みだけ見ればある程度元通りだともいえるかもしれません。けれど、やはりそれだけでは復興とは言えないのではないかと思うんです。

 

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――確かに、その通りだと思います。心が伴わなければ、元のくらしにはなりませんよね。
矢田:物が整っても心が伴わなければ長続きはしません。地域の公民館や、老人会、何でもいいですがそういった地域コミュニティーが復活して、居場所があって、初めて復興といえる気がします。この前美容室で会ったおばあちゃんもね、「敬老の日に久しぶりに集まりがあるんだけど行きたくない」なんて口では言いながら、ちゃっかり髪を切りに来てるんですよ。可愛いでしょう。(笑)

――それは可愛いですね(笑)ほっこりします。
矢田:やっぱり、人は誰かに会うことや居場所を感じることが大切だと思います。地震があっていろいろなものを失った方もいらっしゃいますが、人がいる限り居場所はあると思うので、そういう小さな場や機会をわれわれ神社も作っていきたいと、その役割や使命があると感じています。「自分たちで立ち上がろうぜ」という雰囲気を煙たがったり、支援に頼り切りになってしまうような方もいらっしゃいますが、歩み出さなければ何も始まりません。そこを担うのは、伝統を守る義務のあるわれわれの役目だとも思っています。

 

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――なるほど。この記事は県外の方も多く読まれると思いますが、そういった方々に今求めていることや支援などがあれば教えてください。
矢田:やはり熊本の「今」の情報を発信していただくということでしょうか。同じ県内の中でも、離れている場所ではもうほとんど熊本地震のことを忘れているような雰囲気も感じます。芯をもって発信していただいた情報が、少しでも多くの方に届くと嬉しいなと思います。

 

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被災者は「可哀想」と言われるけれど、そのポジションに留まっていては何も進んでいかない。今だからこそ、伝統ある祭事を継承し続けていくということに意義を見出されている矢田さんは、終始明るく、丁寧にお話をしてくださいました。

誰かが最初の一歩を踏み出せば、それがたとえ小さな一歩でも後に続く人たちが必ず現れる。そんな確信めいたお言葉に、熊本地震の「今」を見たような気がしました。

矢田さん、お忙しいなか本当にありがとうございました!

<阿蘇神社情報>

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動画を再生していただければ、1再生につき約0.1円〜0.5円ほどの奉賛金(募金)が行えます。再生をしていただくだけで、復旧の貢献をしていただけますので、皆さまにはぜひ拡散をお願いできれば幸いです。(英語と繁体字の字幕が入っています)

【 阿蘇神社-社殿復旧に向けて- 】

https://www.youtube.com/watch?v=DOk4HvV2nmA&list=PLbxBXy6IJCdd2pSwdmVZOJj1PhgLrW35a

<木山神宮情報>

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