[生き抜く知恵]vol.2 空想地図

 

滋賀県長浜市のとある場所にある、生き抜く知恵の実験室WEEL。
ここでは日夜「生き抜く力」について考え、時にそれらを身につけるための実験やチャレンジや発信がおこなわれています。

「防災」って、きっとこれからの時代においては自然災害に対するだけのものじゃなく、人生そのものを生きていくための「生き抜く力」のことになる。そんな仮説のもと、生き抜く知恵を学んでいく暮らしの中で、特色あるゲストを招いての特別研修もおこなっています。

今回は、「空想地図」。
わたしたちが学んだ生き抜く知恵を少し、ご紹介させてください。

 

生き抜く知恵のかけら

1.「好き」を活かすためにも「自分」を俯瞰して、「今の自分にできること」を仕事に活かしていく
2.コミュニティや分野ごとに「伝わる表現(共通言語)」というものは変わってくる
3.自分の得意な「伝え方」を把握しておくと生きやすい

 

知恵の持ち主は今和泉隆行さん

今和泉 隆行(いまいずみ たかゆき)

「現実的な架空の現実」を都市地図で描く、空想地図作家。通称「地理人」。 7歳頃から地図・路線図を書き始め、12歳の頃には緻密な地図を描けるように。19歳の頃、「Illustratorって地図ソフトじゃん」という気づきを得てデジタルでの地図制作に移行し、大判の「空想地図」を作り始める。
NHKドラマなどで架空の舞台で地図が必要なとき、地図を制作・提供している。 白水社「みんなの空想地図」著者。

本業:地図や都市のつかみやすい形を作る「地理情報の編集&デザイン」。シェアハウス「はなれ」企画。
※持病:式典アレルギー

 

「空想地図」という現実的(リアル)な架空の世界

今和泉さんがつくる「空想地図」は、非常に緻密で繊細で、何から何までがことごとくリアルだ。

もともと、幼少期から戦隊物ヒーローより路線図が身近にあって、それを見るのが好きな子どもだったという。おままごとやヒーローごっこやブロック遊びのように、「子どもが自分の手で世界を再現する」遊びのひとつとして、今和泉さんは路線図を描き始めた。

 


(幼少期に描いていた路線図)

 

路線図も地図も、描く線の向こう側にはそこに息づく「人」がいる。路線図を発展させて、その路線の周りにある街に目線を移し地図を描き始めた頃には、それはひとつの街を描く「空想地図」となっていった。
今和泉さんの描く「空想地図」は、確かに空想の世界でありながらただの架空の世界にはとどまらない。ひどく現実的で、冴えない、そんな「現実的な架空の世界」だ。

 

(架空の街に暮らす住人たちの落し物。誰もが捨ててしまうようなレシートの方が、見ている人の想像力を掻き立てる材料になることがある。)

 

空想地図は、制作の過程でデジタルツールを使うことはあっても、基本的には紙の地図として作られる。google mapなど現在主流になっているデジタルの地図は「検索」ありきのもので、目的に対して目印になるものしか掲載しないのがセオリー。対して紙の地図は誰が何を探して用いるか特定できないからこそ、持ちうる限りの情報全てを掲載する必要がある。だからこそ、そこには現実に近い「街」や「世界」が見えてくる。

 

自分が自分として生きていくための、現実的な現実逃避

「現実的な現実逃避」という言葉が、この会の序盤に出てきた。
旅行が好きで全国300都市を巡った経験があるという今和泉さんにとって、旅行は「現実的な現実逃避」だったのだという。

「ディズニーランドでの現実逃避は1日で終わってしまうけれど、旅行は自分がその土地に暮らし始めればずっと続いていく「現実」になる可能性のある現実逃避だった」

この独自の目線や物事の捉え方は、確実に彼の作品制作にも反映されているような気がした。
地図は「引き」の図であるからこそ、風景やビルの形などは描かれない。だからこそ、空想地図には「想像の余白」がある。

 

「この商店は名前の感じが古いからきっと昔からずっとここにあって、くすんだ色合い。周りにも高齢者や昔からここに住んでいる家が多いんじゃないだろうか」

「ここはショッピングモールや施設も多くて、開発されたんだなって感じがするなぁ。住宅の色は白っぽく近代的なのかな」

 

そんな勝手でリアルな想像が、どんどん膨らんでいく。
「この辺りに暮らす学生は川沿いを歩いて学校に通うんだろうか。きっと夕日が綺麗だろうなぁ」というような、そんな何気ない日常までもが、紙の地図から浮かび上がってくる。

「現実的な現実逃避」の力というのはどこにあるのか。
今和泉さんは空想地図について、「へぼい私がへぼいままで入っていける場所」だと話す。そこには圧倒的な非日常もなく、魔法のようなカラフルさもない。それでも、そこでは肩の力を抜いた「私」が「私」として存在できる余地がある。

 

「アーティストたちに、空想地図をどんどん汚してほしい」

空想地図に描かれた空想都市の名産品を作るシェフがいたり、そのチラシをデザインするデザイナーがいたり、空想都市の駅で流れる音楽を作曲するミュージシャンがいたり。架空だからこそ失敗が許され、現実的であるからこそ役に立つ。空想地図に描かれた街の中で、私たちは実現させたい「私」の人生の実験と練習をすることができるのかもしれない。

 

「好き」を突き詰めた副産物を活かす生き方

いくら注目されても、空想地図は完全に趣味であると言い続ける今和泉さん。
それでも、その「好き」を突き詰めた結果として得られた副産物的なスキルや経験・知識によって、仕事が生まれているのも事実であるという。

どんなことでも、「好き」を突き詰める過程には無数の小さな要素が散りばめられている。それらを細分化し、俯瞰して把握する。それによって見えてくる「自分が今できること」を活かし、生きているのが彼の生き方だ。
もともと「空想地図で食べていこう」と意気込んで始めた訳ではなく、ただただ純粋に「好き」だから続けていた地図づくり。それが今では、地図づくりだけではなくまちづくり的な観点も含めた仕事としても機能し始めている。

走り続けているとなかなか気づけない「得ていたもの」を、小刻みに自分を俯瞰して把握しようとすることで理解し活用するということも、一つの生き抜く知恵なのだ。

 

「伝える」という行為の捉え方

人は、誰もが自分の内側を外へ向けて伝えながら生きている。表情、口頭による言葉、書き言葉、絵、写真、スキンシップ、ダンス…実に様々な方法で、私たちは意識・無意識を問わず自己表現をおこなっている。
そうした「伝える」という行為の中で、口頭伝達よりも何らかの作品を通して伝えることが得意だと自己認識をした者のことを社会は「アーティスト」と呼ぶのかもしれない。

 

「(空想地図について)もともとは課題解決なんてしようと思って作っていない。後天的にまちづくりやデザインの言葉を用いて、課題解決のために用いる意味や中身を伝えるための術を得ているだけ。だけどそれでいいんだとも思う。分野やコミュニティを横断し、それぞれに伝わる「言葉」を得ている人というのはとても少なく、だからこそそれぞれを繋ぎ可能性を広げるという重要な役割も持っている」

「アートマネジメントが上手な人はアーティストの心を溶かすことが上手。作品の意図とは違う何かが伝わることも「新しい可能性」として受け止めましょうよということを伝えられる人。まちづくりも同じで、元々地域にいた人たちへ「こんな可能性が生まれるかもしれない」ということを伝えられるかどうかが重要になる」

「空想地図を作る過程で、どんな人がどんな風に暮らしているのかということに想いを馳せる。自分にとっての空想地図は、「まったく知らない誰か」のことを理解することができるツールでもある」

 

自分がどんな方法で「伝える」ことが得意なのか。
また、それぞれのコミュニティでは「どんな伝え方」であれば伝えることができるのか。

コミュニティの共通言語の見極めや、それぞれの中にある「伝わる表現」の選び方を心得ておくということは、これからさまざまな側面で多様化していく変化の時代において非常に重要な生き抜く知恵になってくるのではないかという、そんな予感がする。

 

 

「何で伝わらないんだ」と苦しむよりも、「違う文化圏/言語圏なんだ」というような心持ちで観察してみる。俯瞰して、見る。そんな心持ちの上で、「これなら届くかもしれない」というやり方を見つけていくことができたなら、私たちはもう共通言語を得たも同然なのだ。

たまには、俯瞰して見てみよう。まるで地図を眺める時のように。

 

 

他にも生き抜く知恵の実験室WEELでは動画配信など様々な取り組みを滋賀県長浜市さんと行なっております!ぜひ下の画像をクリックしてご覧ください!

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